竹野内がやってきた

家に帰ると竹野内がいた。竹野内豊だ。

もちろん知り合いではない。

竹野内と知り合いどころか、テレビに出る側の人間に知り合いなど1人もいない。

見る側の私の家のリビングで、竹野内は体育座りをしていた。

ソファには座らず寄りかかり、フローリングに直に座り、あの長い脚を折りたたみ膝を抱えていた。

 

先に帰ってきた夫が、私に気づきお帰りを言いに来た。

夫はただいまも言えず無言の私に、そうだよね、と言いながら、していたエプロンを外し椅子に座った。

 

私達が2人で住むマンションの近くに映画会社の小さい撮影所がある。

その撮影所の前にあるベンチで竹野内を見つけた。

そして付いて来たから家に上げたと言った。

 

犬なのか?竹野内は捨て犬なのか?

私には竹野内豊に見えているが、夫には犬にでも見えているのだろうか。

リアクション出来ずにいる立ったままの私を間に、夫は竹野内と目を合わせ肩をすくめて見せた。

竹野内は竹野内で、眉を少し下げ、体育座りをやめずにこちらを伺っていた。

 

その姿はテレビで見る歓声の中の竹野内からは想像が出来ないほどに幼く見え、より私を混乱させた。

それにしても脚が長過ぎる。

なんだか体育座り姿が気味が悪い。